先ごろ、国連子どもの権利委員会は、日本政府に対して、子どもの権利条約の批准状況について総括所見・勧告を行った。ここでは、代替養育についてみていこう。
ご存じのように日本は国連子どもの権利条約を批准している。批准すると、その履行状況について定期的に子どもの権利委員会に報告をしなければならない。
平成29年6月に、日本政府から提出した第4回・第5回総合定期報告書への子どもの権利委員会の審査が今年1月16日・17日に行われ、2月1日に総括所見・勧告が採択された。
代替養育に関連し、また全体にもいえることは、立法的には「子どもの権利に関する包括的な法律」を作るように勧告している。また、子どもからの苦情など人権を監視する機関の設置とその独立性を求めている。
子どもの意見の尊重については、「意見を聴かれる権利を子どもが行使できるようにする環境を提供」し「家庭、学校、代替的養育および保健医療の現場、子どもに関わる司法手続きおよび行政手続きならびに地域コミュニティにおいて(略)参加することを積極的に促進するよう勧告する」としている。
一般の家庭および代替養育の現場における体罰についても、日本では民法によって懲戒が認められており、体罰の許容性が明確でないことに深刻に懸念するとしている。そして「家庭、代替養育および保育の現場ならびに刑事施設を含むあらゆる場面におけるあらゆる体罰を、いかに軽いものであっても、法律において明示的かつ全面的に禁止すること」としている。
家庭環境を奪われた子どもについては6点にわたって懸念するとしている。①子どもは裁判所の命令なくして家族から分離される可能性があり、かつ最高2カ月もの長い間一時保護所に入所させられること、②外部者による監視および評価の機構も設けられていない施設に措置されること、③児童相談所により多くの子どもを受け入れることに対する強力な金銭的インセンティブが存在すると主張されていること、④里親が包括的支援、十分な研修および監視を受けていないこと、⑤施設に措置された子どもが、生物学的親との接触を維持する権利を剥奪されていること、⑥児童相談所に対し、生物学的親が子どもの分離に反対する場合または子どもの措置に関する生物学的親の決定が子どもの最善の利益に反する場合には家庭裁判所に申し立てを行うべきである旨の明確な指示が与えられていないこと。
これに対して、子どもの権利委員会は「以下の措置をとるよう促す」として、①子どもを家庭から分離するべきか否かの決定に関連して義務的司法審査を導入し、子どもの分離に関する明確な基準を定め、かつ、親からの子どもの分離が、最後の手段としてのみ、それが子どもの保護のために必要でありかつ子どもの最善の利益に合致する場合に、子どもおよびその親の意見を聴取した後に行われることを確保すること、②明確なスケジュールに沿った「新しい社会的養育ビジョン」の迅速かつ効果的な執行、6歳未満の子どもを手始めとする子どもの速やかな脱施設化およびフォスタリング機関の設置を確保すること、③児童相談所における子どもの一時保護の慣行を廃止すること、④代替養育の現場における子どもの虐待を防止し、これらの虐待について捜査を行い、かつ虐待を行った者を追訴すること。里親養育および施設的環境への子どもの措置が独立した外部者により定期的に再審査されることを確保すること、ならびに、子どもの不当な取り扱いの通報、監視および是正のための、アクセスしやすく安全な回路を用意するなどの手段により、これらの環境におけるケアの質を監視すること、⑤財源を施設から家族的環境(里親など)に振り向け直すとともに、すべての里親が包括的な支援、十分な研修および監視を受けることを確保しながら、脱施設化を実行に移す自治体の能力を強化し、かつ同時に家庭を基盤とする養育体制を強化すること、⑥子どもの措置に関する生物学的親の決定が子どもの最善の利益に反する場合は家庭裁判所に申し立てを行うよう児童相談所に明確な指示を与える目的で、里親委託ガイドラインを改正すること。
この総括所見を解説する。まず、「子どもの権利に関する包括的な法律」を作るように勧告しているが、これは第1回目の総括所見からいわれ続けていること。平成28年度の改正児童福祉法では子どもの権利条約がうたわれているが、特定の法律だけでなく、子ども基本法のような形での取り組みが求められているもの。
子どもの権利侵害の監視については近年、国内でも関心が高まっていまる。また、子どもの意見の尊重については、改正児童福祉法第2条でうたっており、新しい社会的養育ビジョンや昨年7月に厚生労働省から発出された「都道府県社会的養育推進計画要領」でも2番目の項目として求めており、重要性が認識されている。
体罰については国内でも世論が高まっており、時宜を得た指摘といえる。
代替養育について懸念することとしては、①親子の分離には裁判所の命令を、としている。国内ではともすると強引な親子分離が正当化されているが、親子でともに暮らすことこそが先行する権利で、親子分離にあたっては司法の関与を求めている。
②では、施設について、監視や評価の機構が十分ではないと指摘している。
総括所見のなかでもっとも不思議なのは③の児童相談所に金銭的なインセンティブが働いているとの主張がある、と指摘していること。この指摘は国内のある民間団体が「児童相談所には措置ノルマがある」などと強く主張していることから反映されたものと思われる。政府はきちんと反論すべき。
④は里親について。十分な研修体制や包括的な支援体制、監視の体制のないことを指摘している。今年度から、フォスタリング機関の動きはあるが、監視の体制という意味では十分な取り組みは見られない。
こうした懸念について、子どもの権利委員会は「以下の措置をとるよう促す」としている。勧告という強い表現にはなっていない。項目ごとにみていこう。
①については、親子分離が最後の手段であること。分離が必要であれば、そのための明確な基準を設けること、としていて、義務的司法審査の必要を求めている。ジュネーブで開かれた本審査前に、強引な親子分離を経験し、それに納得しない実親などにヒアリングしたようで、このような意見も汲み取られたと思われる。
②については、国内で賛否のあった「新しい社会的養育ビジョン」を迅速、効果的に進めるべき、としている。国内では数値目標の達成に関心が向けられることに拙速であるなどの声がでているが、所見では「明確なスケジュールに沿った」と目標達成への賛意が感じられる。
③については、児童相談所内に設けられている一時保護について慣行を廃止するように求めている。しかし、どのようにというアドバイスはない。問題が多いとのみ認識したと思われる。海外の事例なども研究して、一時保護のあり方を見直すべきだろう。ポイントはできるだけ短期間であること、保護はできるだけ家庭環境で行われるべきであること、学校に通えるようにするなど子どもの権利に配慮すること、などだろう。
④は被措置児童に対する虐待などに対応があまいといっている。虐待の防止と虐待を行った者については追訴するべきだとしている。また、養育の質を外部機関が監視する体制を作るべきだとしている。これは、施設だけでなく里親にも求めている。
⑤は脱施設化で、里親など家庭養育の強化に向けて財源のあり方を見直すように、としている。そのために自治体にも、家庭基盤での養育の必要性を促すように、としている。
⑥は生物学的な親、いわゆる実親が子どもの最善の利益に反するような場合は家庭裁判所への申し立てを行うよう児童相談所に指示をするように、としている。
代替養育について、国連子どもの権利委員会のだした総括所見をみてきたが、多くの部分は国や自治体において現在作業中であり、それが的の外れたものではなかったと思わせてくれる。また、親子分離のあり方、一時保護のあり方については見直しを迫っている。多くの部分で司法の関与を求めてもいる。
子どもの権利をベースにした代替養育を実現させるために、これらの指摘を謙虚に受け止めたいもの。