官民協議会の提言

子ども家庭養育推進官民協議会は8月18日、厚生労働大臣に提言書を渡した。内容は以下の通り。

1.子どもの権利擁護に向けた取組の推進
児童福祉法では、検討規定として、「児童の意見表明権を保障する仕組みの構築その他の児童の権利擁護の在り方について、施行後2年を目途に検討を加え、必要な措置を講ずるものとする。」とされている。昨年度立ち上げられた子どもの権利擁護に関するワーキングチームにおいては、意見表明権の保障のみならず、子どもの権利擁護全体のアドボカシーシステム構築に向けて積極的に取り組み、今年度中にとりまとめ令和3年度の予算に反映させ、法制化を検討すること。
② 子どもの権利擁護やアドボカシーの実施に向けた地方自治体や民間団体の取組を積極的に支援し、権利擁護に向けた具体的な事業を幅広く支援する補助金を創設すること。
2.社会的養育推進に向けた財源の確保
① 国から示された要領に基づいた里親養育支援体制の構築のためには、これまで各地域が進めてきた取組を踏まえて、地域の実情に応じた対応を検討し、取組を円滑に移行させていく必要がある。しかし、地方自治体においても、現行の負担割合(国、地方1/2)では財政的に限界がある。これらに対応するため、フォスタリング機関が継続的に質の高い里親養育支援に取り組めるよう十分な予算措置を行うこと。
② 新たに里親養育包括支援事業に取り組もうとする施設や団体、NPO法人が円滑に事業を開始できるよう、事業準備期間に要する経費(専門人材を養成する期間中における代替職員に係る人件費の補填、地域事情に応じた取組の導入に向けた検討、関係機関とのネットワークの構築など)に柔軟に対応できる交付金の創設や現行補助制度における特例的な嵩上げ措置など制度推進に向けてインセンティブを与える制度を創設すること。また、フォスタリング機関の活動を継続させるために、支援内容の質を確保したうえで、フォスタリング機関(里親養育包括支援機関)事業の支出を補助金から措置費に切り替えること。
児童養護施設の暫定定員の設定における算定対象に、子育て短期支援事業(ショートステイ)の利用実績も含めること。
3.里親制度及びファミリーホームの見直しに向けた検討する場の創設
「新しい社会的養育ビジョン」においてケアニーズの内容や程度による加算制度の導入、専門里親制度の見直し、ショートステイ里親などの新しい類型の創設、里親の名称変更などが提言されている。また、ファミリーホームにケアニーズの高い子どもが措置されている実態があり、家庭養護としてのファミリーホームの定員や支援体制の問題が顕在化している。ファミリーホームの安定的な運営を確保するためには、障害児への加算や定員払いの検討など措置費の見直しも必要と考えられる。早急にファミリーホームも含めた里親制度のあり方に関する検討会を立ち上げること。
4. 児童相談体制の強化と支援の充実
① 平成 30 年 12 月 18 日に公表された「児童虐待防止対策体制総合強化プラン」(以下、新プランと略す)は、里親養育支援児童福祉司・市町村支援児童福祉司も含めた児童福祉司及び児童心理司等の配置基準が明記された。また、市町村において、市区町村子ども家庭総合支援拠点を令和4年度までに全市町村に設置する旨規定されたものの、小規模な自治体では必要な人員の確保が困難である等の理由から設置が進んでいない。
児童相談所の職員配置の増員及び市区町村子ども家庭総合支援拠点の設置を確実に推進するため、地方交付税の増額措置や新たな交付金の創設など必要な財源措置を行いつつ、小規模な自治体の人材確保について、国として積極的に取り組むこと。
② 新しい社会的養育ビジョンにおいては、在宅支援の強化が求められているものの、全てを行政機関の職員が担うことは非効率的であり、多機能化した施設や児童家庭支援センター等における質の高い在宅支援サービスの提供が期待されている。これら施設や児童家庭支援センター等が子どもや家庭のニーズに対応できるよう必要十分な財源措置を行うこと。
③ 児童福祉分野の職員体制の強化にあたっては、専門性の強化が必要不可欠である。令和元年児童福祉法の検討規定の「児童福祉の専門知識・技術を必要とする支援を行う者の資格の在り方その他資質の向上策について」検討を加えることとされており、児童に特化したソーシャルワーカーの養成や資格のあり方について、前向きな検討を行うこと。
④ 里親制度の普及・促進に向けては、各児童相談所と市町村が連携して取り組むことができる環境の整備が重要であるため、市町村が児童相談所等と連携して取り組む里親制度の普及・促進に向けた財政支援制度を創設すること。また、児童家庭支援センターやフォスタリング機関などが市町村からの要請を受ける調整機関となって、里親をショートステイの受け皿として活用する仕組みを整えるとともに、それに対する財政支
援制度を創設すること。
5.特別養子縁組および里親制度の推進
特別養子縁組の推進に向けた人材育成の強化や円滑に民間と行政が連携するためのデータベースの構築、養子縁組家庭への中長期的な支援体制の整備などの社会的基盤づくりに向けた財政措置を行うこと。
② 育児・介護休業法において、特別養子縁組の監護期間や養子縁組里親として養育している子どもについては、子どもの年齢に関係なく、委託されてから1年間は育児休暇を取得できるよう法改正を検討すること。
③ 虐待・DVのおそれがある場合の保育所の優先利用が全国どこの自治体でも実施されるよう更なる周知徹底を図ること。また、保育所等(幼稚園、認定こども園児童発達支援センターなど)の優先利用に里親・ファミリーホームなどの社会的養護下の子どもを加えるなど、社会的養護下の子どもが確実に保育所等に入所できる制度を整えること。さらに、保育料以外に実費として徴収している通園送迎費、食材料費、行事費
などの経費についても、すべて費用弁済される制度を整えること。
④ 里親制度の普及、里親子間の愛着関係の形成及び子どもの心身の健全な発達のため、子どもの年齢に応じて、里親が正式な受託に至る前のマッチングの期間中も含めて、一定期間、柔軟に休業できる制度を数年以内に構築するため、検討を開始すること。
⑤ 改正民法の趣旨を児童相談所をはじめ関係機関に正しく周知するとともに、特別養子縁組を必要とする子どもにその機会が保障されるよう、特別養子縁組を進めるための指針を定めること。
6.市町村の子ども家庭支援体制構築に向けた支援の充実
① 市町村の在宅支援体制を強化するため、市町村が子育て世代包括支援センター等で実施する子育て支援事業、母子保健事業に対する財政支援策を充実させるとともに、子ども家庭総合支援拠点設置に向けた支援メニューの充実を図ること。
② 市町村が児童家庭支援センターや関係機関等と連携して家庭支援が行われるよう必要な財源措置を行うこと。
7.児童福祉施設が取り組む多機能化・地域分散化・専門化への支援の充実
① 社会的養育環境の整備にあたっては、里親と児童福祉施設が互いに連携して支援を必要としている子どもの養育に取り組める環境の整備が不可欠であるため、施設が取り組む専門性の向上や多機能化、施設の小規模化、地域分散化が子どもの不利益となることなく円滑に進むよう、安定した運営が継続できる体制の保障や新たな取組を促進する適切な予算措置を行うこと。
乳児院が多機能化に取り組むにあたっては、フォスタリング業務に留まらず子どものパーマネンシー保障に向けた新たな機能を担うための職員再トレーニングや新たな人材確保・育成が必要であり、研修に加えてコンサルテーション等の体制を整備すること。
③ 障害児入所施設については、「障害児入所施設の在り方に関する検討会報告書」に基づき、地域小規模障害児入所施設の創設、里親・ファミリーホームへの支援、職員配置基準の引き上げ等、十分な予算措置を行うこと。
8.一時保護受入体制整備に向けた支援の充実
① 現在、児童養護施設乳児院等とされている一時保護専用施設の設置に向けた補助の対象に、小規模の安全安心な家庭的環境で専門的にアセスメントやケアなどを実践しているNPO法人を加えること。
② 一時保護ガイドラインに沿って、地域に分散化した開放的で小規模な一時保護専用施設を、多くの子どもが活用できるよう、一時保護児童のみを対象としている現状の通知文「児童養護施設等における一時保護児童の受入体制の整備について」を見直し、利用者の変動の大きい委託一時保護専用ユニットを有効活用するため、子育て短期支援事業(ショートステイ等)や、里親の一時的な休息のための援助(レスパイトケア)で受け入れる児童が利用できるようにすること。さらに、一時保護実施特別加算の対象となる施設に、障害児入所施設も含めること。
児童相談所付設の既存一時保護所の小規模化に向けた施設整備については、地域分散化などにより既存一時保護所の定員を縮小する場合も含めて、次世代育成支援対策施設整備交付金の対象とすることを明確にすること。また、交付要領は自治体の実情に合わせたものとし、既存一時保護所の小規模化を促進すること。
④ 一時保護委託中の子どもが、教育権の保障の観点から原籍校への通学等が可能となるよう、現状の一時保護委託児童通学送迎費を増額するなど制度を整備すること。
⑤ 一時保護専用施設職員の職員の配置基準を、地域小規模児童養護施設並みの配置基準にすること、あるいは、高機能化加算の対象にするなど改善すること。あわせて、一時保護委託を受ける里親に対しても、十分な支援体制を構築すること。
9.その他
① 社会的養育の推進において、3歳未満や未就学児の里親委託率の統計を導入し、里親委託率だけではなく、特別養子縁組などのパーマネンシー保障を評価する指標や、一時保護委託による里親の活用等を評価する多角的な指標の導入を検討すること。また、未委託里親の活用や委託を希望する里親を顕在化させる仕組みを設けること。
② 今後、社会的養育において外国籍の子どもの増加が予想され、言語の問題、入管上の問題、実親との面会など、ケースごとに対応の異なる問題が生じる可能性があるため、社会的養育にいる外国籍の子どもの実情と課題の把握について検討すること。