里親による事件の動き

地元メディアが、里親による事件のその後を知らせている。

里親経験者らが子どもを預かる県内の養護先で、立場を利用して子どもに性的虐待をしたとして、監護者性交と児童福祉法違反(児童に淫行をさせる行為)の罪で起訴された被告の男(57)の初公判は13日、長野地裁支部で開いた。検察側は冒頭陳述で、男が昨年5月以降、10回以上にわたって子どもに性的虐待を重ねていたと明らかにした。

男は罪状認否で「監護者という立場にあって性交をした」と起訴内容を認めた上で、「意図して私の元に呼んだということはない」と主張。弁護側は情状酌量を求める方針を示した。公判では被害者の特定を避けるためとして男の名前や住所が伏せられた。

検察側は冒陳で、男は高校卒業後に職を転々とした後、2015年に里親登録。17年、特別なケアが必要な子どもも預かる「専門里親」になった。被害に遭った18歳未満の子どもは17年5月から男の養護先で暮らしており、男は住宅2階の自室に招き入れて犯行に及んだ―とした。

被害が発覚した経緯については、昨年11月13日に学校が実施したアンケートで子どもが被害を申告し、担当教諭が子どもらに聞き取りをして同12月3日、学校が児童相談所に通報した。男はその後、里親登録を削除された。

起訴状によると、男は養育者として委託児童の被害者と同居して寝食の世話をしていたが、被害者が18歳未満と知りながら養育者の立場を利用し、昨年11月中旬ごろから下旬ごろまでの間に、養護先で性交したとしている。

事件を巡っては、県社会福祉審議会下部組織の重大被措置児童虐待検証委員会が11日に初会合を開き、再発防止などに向けて検証を始めている。

監護者性交などの罪に問われた被告の男の初公判では、被害者の特定に結び付くとして男の名前や住所が伏せられた。性犯罪被害者を二次被害から守るための配慮が図られる一方、憲法が定める裁判の公開の原則や、国民の知る権利などとの兼ね合いで慎重な判断が求められる。専門家は「安易であってはならない」とくぎを刺す。

刑事裁判の初公判では、被告が人違いでないことを確かめる人定質問が口頭で行われる。だが、今回は検察官が男の前に立ち、起訴状に記した名前と住所を指さして「記載内容に間違いはないか」と聞く方法で人定が行われた。

今回、長野地裁支部刑事訴訟法290条の2を根拠に男の名前などを伏せた。条文は主に性犯罪被害者の保護を図ることを目的に、被害者側からの申し出を受けて、裁判所が身元特定につながる情報を法廷で明らかにしない決定ができると規定。被害者保護の要請が高まる中、全国的に被告の名前を伏せるケースも増えてきている。

一方、憲法82条は「裁判の対審および判決は、公開法廷でこれを行う」と定める。信州大の成沢孝人教授(憲法学)は、今回の事件とは別に仮に冤罪(えんざい)事件のケースでは、被告の名誉回復が難しくなる可能性があると指摘。「被告の氏名が被害者の特定にどう直結するのかが示されない中で、匿名としたのは行きすぎの印象がある」としている。