乳児の口に血、やはり代理ミュンヒハウゼン症候群だった

9月9日のこのブログで、乳児に血液を飲ませて嘔吐させた事件は代理ミュンヒハウゼン症候群ではないかと書いたが、やはりそうだったようだ。養育に関わる倒錯した精神疾患、里親にも無関係とは言えない。相談を受けていて、里親の熱心な養育の背景にこの病理が感じられたことは少なくない。事件に発展しない軽微なものなら、どうやってチェックをしたらいいのだろうか。

週刊朝日の記事によるとーー。

●事件概要

子どもを病気にして献身的に看病し、周囲の注目を集めようとする――。「代理ミュンヒハウゼン症候群」という精神疾患が疑われる児童虐待の事件が発生した。小児科医によると、この症候群は、潜在的な広がりがあるという。
入院している生後2カ月の長男に、他人の血液を口に含ませて嘔吐(おうと)させたとして、9月7日に母親(23)が傷害の疑いで大阪府警に逮捕された。
逮捕容疑は今年2月と3月の2回だが、長男は1月に発熱で入院して以来、20回以上嘔吐しており、そのたびに母親が看護師に伝えていた。母親がいる時に限って嘔吐するので、虐待が疑われたのだ。母親は容疑を否認しているが、「代理ミュンヒハウゼン症候群」が疑われている。
●「代理ミュンヒハウゼン症候群」とは、どういったものなのか。
1951年、イギリスの医師により発表された「ミュンヒハウゼン症候群」は、他人の愛情や関心を得て周囲を操りたいがために、病気のふりや自傷を繰り返す症状をいう。病名の由来は、ドイツの詩人ビュルガーによる『ほら吹き男爵の冒険』に登場する主人公で、18世紀に実存したミュンヒハウゼン男爵から名づけられた。
「代理」とつく「代理ミュンヒハウゼン症候群」は、自分ではなく代理として子どもや近親者を病気に仕立てる。日本小児科学会の報告によると、<子どもに病気を作り、かいがいしく面倒をみることにより自らの心の安定をはかる、子どもの虐待における特殊型>とされる。加害者は熱心なふりをした母親に多く、医師をもだまして不必要な治療が行われ、子どもの健康を脅かす恐れすらある。
『子どもの脳を傷つける親たち』などの著者、福井大学子どものこころの発達研究センターの友田明美教授(小児神経科医)は、かつてこの症例に遭遇したことがあった。
「4歳の女児を連れて受診に来たある母親が、『娘が夜中に頭痛で泣き叫ぶ』と訴えてきたことがありました。血液検査や脳の画像検査などしたところ、異常は見つかりませんでした。母親は、痛み止めを要求してきたので、子どもに使用できる鎮静剤を処方しました。ところが、それでも効果がないと母親は訴えてきました。私は主治医として親身になっていくにつれ、薬の量を増やしたのですが、次第に疑いを抱くようになりました。最終的に児童相談所が介入し、女児は施設に引き取られました。母親から離れたその日の夜から女児はすやすやと眠って、母親の虚言だったと発覚したのです」
父親は仕事ばかりで、ほとんど家庭を顧みなかったという背景もあった。献身的な母親をしている姿を見てもらうために、うそをついて関心を引きたかったのだろう、という。

心の病によって母親が子どもを病気に仕立てる不幸な事例を防ぐには、どうしたらいいのだろうか。

『赤ちゃんが大人になる道筋と育て直し―三つ子の魂、乳幼児体験の大切さ―』の著者で臨床心理士の角田春高さんは、こうした母親の内面を探り、理解することの重要性を語る。
「母親は、孤独感と孤立感にさいなまれているがゆえに、子どもを陰で痛めつけてその子どもを世話する良き母親として関心を寄せてもらい、同情を集めているのだと思います。私が相談を受ける時には、母親が頼りにしている人を核に据えて、その人が母親の内面に耳を傾け、理解してあげるように努めてもらいます。自分は一人ではない、真剣に考えてくれる人が身近にいるのだと安心できる経験が必要です」
2010年には、入院していた幼い3人の娘の点滴に水などを混入して、1人を死亡、2人を重症にさせたとして「代理ミュンヒハウゼン症候群」と診断された母親が傷害致死の罪に問われ、懲役10年が言い渡される事件があった。
保護者による子どもの虐待で「代理ミュンヒハウゼン症候群」が疑われる事例があるときは、最悪の事態を招く前に専門家の診断を受けて、精神的なケアが求められる。