全国里親会の要望

里親による家庭養育について厚生労働省に要望書が提出されている。下記の文章は全国里親会の要望。

 

1.子どもと里親を育てる地域社会の創成
「子どもと里親を育てる」社会とは、大きく分類すると国、都道府県、市町村に分かれます。そしてそれぞれに役割分担がありますが、それらがうまく連携・機能し、実際の養育家庭を支える地域コミュニティをしっかり形成することが大切です。
多様な子どもを養育する里親の養育環境を、国、都道府県、市町村が一体となって整備すると共に里親に係る専門部署の設置が早急に望まれます。
① 市区町村単位での里親支援行政の充実
里親支援は都道府県が中心になっています。里親開拓に力を入れている都道府県において、市区町村と連携を深めているところもありますがまだ少数です。
里親開拓や育成に関わっての市区町村の積極的関与、児童相談所との連携の強化、市区町村の専門力の強化などは今後の施策として重要であると考えます。
② 他分野社会福祉との連携強化
児童福祉、障害福祉、高齢福祉、女性福祉、公的扶助等、他分野の福祉とは必要に応じ連携を強化し、ときには一体となって課題を抱える家族の支援にあたることが大切です。これらに共通するソーシャルワークの専門職を今後拡充、育成し、必要に応じて交流や登用もできる仕組みも整備願えれば幸いです。
都道府県主管課の体制強化
現在、里親申請から認定に至るまでの期間が長期に及ぶ自治体において待機者が生じており、研修や審議会等の回数を増やすなど、主管課の体制強化についても改善が必要と考えます。
④ 養子縁組里親に関わって
養子斡旋は、現在児童相談所と民間団体の並立で行われていますが、双方の関係や費用等に関わって調整が必要です。
2.里親家庭における養育環境の一層の整備
① 里親手当の一層の拡充
今年度養育里親手当は、月額 9 万円、2 人目も同額(専門里親手当も同様)との手当拡充を実現していただきました。全国里親会としましてもご尽力に対し深く感謝申し上げる次第です。しかし、今後里親をさらに拡大するためには、以下の分野にも配慮いただきたいと考えます。
ⅰ 里親は 365 日の養育体制で、かつ 24 時間養育に関わります。今後乳児や発達障害児等の養育を推進されるにあたっては、専門里親と同等の扱いとなるよう検討いただきたい。さらには、乳幼児の委託推進に関わっては、育休制度の適用についても検討
願いたい。
児童虐待の増加を反映して、ショートステイや一時保護委託等のニーズが拡大しています。現在制度に基づく里親手当の対象外になっている、一時保護里親、ショートステイ里親、トワイライト里親、週末里親、季節里親等の類型を整理し、里親手当の対象となるよう検討いただきたい。
なお、現在親族里親は里親手当が除外されているので改善を望みます。
ⅲ 山間僻地等における車通学費用、無認可保育園利用の費用、さらには家庭での養育環境整備の費用、あるいは自立後の躓きに対する援助の費用、高校生に対する自家用車等での通学費用、部活費用等、里親が現在個人負担で行っている費用への支弁も検討いただきたい。
② 委託児童の過失による損害に対する総合保険等による補償について
委託児童が故意に里親家庭の建物・備品を壊したり、万引き、窃盗などの問題行動、ときには里親への加害などを起こした場合、多くの場合では経済的弁済等を里親自身が行っています。
現行の里親賠償保険は対象外であったり、自治体によっても加入や費用保障などの対応が異なっていますので、様々な事態に対応できる里親総合保険等の加入とその費用補填を厚生労働省として検討いただきたい。
③ 里親家庭における養育の質を向上させるための取り組み
多様な子どもの健やかな心身の成長発達を図るためには、里親の養育の質を高める必要があります。
研修は里親の認定前から始め、子どもの養育上の困難やその対応方法など、里親の研修ニーズを踏まえた研修が継続的に行われる必要があります。
里親および里親関係機関等職員の研修は、児童相談所など行政機関が行う研修システムと里親会が行う研修システムを連携させ、講義、演習、実習等を取り入れた総合的研修を実施することが必要であり、そのための支援をお願いします。
全国里親会としても公益財団法人として各里親会の事業を支援し、研修の充実強化を図っていきたいと考えています。
④ 里親の権利・身分の保証と不調ケースの検証およびその知見の共有
里親が増加するにしたがって、養育関係に不調がおきることが想定されます。現状では、経験の浅い児童福祉関係者によって里親に対する一方的評価が下されている場合があります。里子と里親の一時的な感情の問題も多く、その破綻は里子及び里親にとって大きな傷付き体験になります。
里親を評価する過程において、里親および子ども等からの丁寧な事情聴取、適正な弁明と弁護の機会、第三者の評価など、プロセスの明確化を図るよう提言します。
また、里親資格を喪失した後、里親、里子双方の意思で再養育を継続しているケースもあり救済措置が必要です。
さらには、不調や破綻ケースに対する検証の仕組を作り、里親、及び里親に関わる関係者等がその知見を共有し、少しでも不調ケースを生じさせないようにするための対策強化についても必要と考えます。
3 里親リクルート及び里親委託の推進に対する支援
「ビジョン」や「推進計画」の策定において、国の目標として「概ね 7 年以内(3 歳未満は概ね5年以内)に、乳幼児の里親委託率75%以上」「概ね10年以内を目途に学童期以降の里親委託率50%以上」を掲げています。
この目標を達成するためには、里親リクルートが重要であり、里親登録が増えなければ実現できない課題です。
そのためには、国及び都道府県が里親会他関係団体や機関等と連携して、新聞、チラシ、ホームページ、SNS、TV などを活用した広報などによる総合的かつ継続的なリクルート活動に取り組んでいく必要があります。
そして、具体には里親会への加入促進や、各団体等によるリクルート活動等に対する助成など、多様な方法での活動を促す施策が望まれます。
また、里親の存在やその位置づけを地域の各機関等に明確にするため、全国統一した「里親の身分証明書」も必要と考えます。
さらには、他県に転居しても有効な全国共通のライセンスになるよう望みます。
4.委託された年長児童の自立支援の充実
平成28年の法改正で、自立援助ホームに措置されている子どもについては大学卒業時期である22 歳までの措置継続が制度上可能になりました。
社会的養護を必要とする子どもの内、学歴が最も高く、また大学に通っている率が最も高いのは里親に委託されている子どもであることを考えるならば、里親委託児童や児童養護施設入所児童等に対しても同様の措置継続ができるように、早期の制度改
正が必要と考えます。
5.家庭養護推進のための財源の確保
国が示した代替養育の大きな方針転換は、個々の制度施策に十分な予算措置が伴ってこそ初めて可能になります。ビジョンで示された代替養育の推進のための工程を実現可能にするための予算に関し、未来を担う子どもたちのため、十分な予算の確保をお願いいたします。
とりわけ里親推進の要となる民間フォスタリング機関の強化は大切で、現行の補助金事業から措置費体系に財政強化されることを望みます。
6.コロナウイルスに関わっての対策強化
現在世界的にコロナウイルスが猛威を振るっており、国ぐるみの対策が求められています。日本においても緊急事態宣言が5月末頃まで延期が決まり、政府としましてもその対策に並々ならぬご尽力をいただいているところです。
私たち里親会としても何らかのお力にならないものか、親が感染し入院等の必要が生じたときの子どもの養育に関わって、養育の可否やその条件等に関してアンケートを実施してきたところです。これからの推移の中で社会的養護に係る子どもとコロナ感染に絡んで、その養育体制や医療、あるいは観察体制など、懸念される事態が想定されますので、対策と具体的な指針の作成を望みます。