社会的処方

新型コロナウイルス問題で、休校で気づいた教育の福祉的な側面。ところで、医療の福祉的な側面が最近話題になっている。
西智弘編著の『社会的処方』(学芸出版社2200円)がそれ。「孤立という病を地域のつながりで治す方法」とサブタイトルがついている。医療的な側面だけではなかなか解決できない問題を、地域の支援を借りて行おうというもの。いかに孤立に起因する病の多いことか。「どんな人でも地域をよくする能力・知識・技術をもっている」という認識が重要。そこでは、支援する側とされる側の垣根をとりはらい、医師やソーシャルワーカーなどの専門知識を絶対としない姿勢が大事なのだとも。

思い出すのは、ここで何度も取り上げてきた『犬として育てられた少年』だ。重篤な虐待を経験した子どもは治療的なケアよりも普通の暮らしにある治療的な効果の方が大切だという視点。もちろんそこには、地域社会の重要性を抜きにはできない。

逆にいえば、社会的処方が失われている世界にこそ関心を持つべきだろう。教育しかり、医療しかり。専門家よりも普通に暮らしているものこそ優位にあるべきだ。そういう視点をもたずに専門家にゆだねるべきだ、という考えは危険ではないか。