里親とは何か(里親保障について書いてきたことのまとめ)

里親とは何か。里親保障として書いてきたが、里親の学校で議論をしたこともあるので、あたらめてポイントのみまとめておく。


<養育中の事故の補償>
里親とは何か。分かりやすい事例として、受託している子どもに事故が起きた場合の責任について施設と里親について比較してみよう。
児童養護施設の事故としては、暁学園(愛知県・2017年度末で法人は解散)の事故が最高裁判例としてある。施設内の4人の子どもから暴行を受けて脳障害になった少年に対して誰に賠償責任があるか。実親は県と施設に賠償を求めていたが、施設の賠償を退け、県のみが3375万円の賠償という判決。判決内容は「都道府県の判断で児童を措置入所させる場合、施設職員の行為は公務員としての職務と考えるべきだ」との判断を示した。
 <暁学園の集団暴行事件> 1998年1月、当時学園で養育監護を受けていた12-14歳の少年4人が、約30分間にわたって9歳男児の頭や腹を殴ったりけったりして外傷性脳梗塞(こうそく)などのけがを負わせた。
里親についてはどうだろう。
長男が知的障害などに陥ったのは里親の責任だとして、埼玉県川口市の両親が、所沢市の里親夫婦と、仲介した埼玉県を相手取り、1億6525万円の損害賠償請求訴訟をさいたま地裁に起こした。判決としては、県は免れて、里親に8500万円の支払いを命じた。里親保険と、残りは異例の措置だが埼玉県が支払った。県の温情がなければ里親が支払うべきものであった。
暁学園の判決――「都道府県の判断で児童を措置入所させる場合、施設職員の行為は公務員としての職務と考えるべきだ」は、里親にはなされないのだろうか。この場合でも、都道府県の措置によって里親は児童を受託していたはずだが。

 

<施設と里親の違い>
http://fosterfamily.web.fc2.com/monthly/amano_file.html
は、千葉県里親家庭支援センターのホームページにアップしている天農氏の論文だが、かいつまんでいうとこういうことだ。
昭和22年に制定された日本国憲法第89条では民間への公的補助は全面禁止だった。それが昭和25年に制定された生活保護法では公的な保護施設がないときに限って民間保護施設への補助が認められるようになる。翌年、社会福祉事業法が制定され、社会福祉法人に限って公的補助が可能になる。
社会福祉事業法の成立の勢いを得て、第5次児童福祉法改正は家庭養護中心にすべきところ施設養護が中心となっていく。
憲法で禁止されていた民間への公的助成を実現させた社会福祉法人。ここを理解していないと、暁学園の事件が県の責任で、里親は一私人であるという判決も分からないことになる。
同じ措置児童の養育でも、施設は準公務員の仕事であり、里親は単なるボランティア。事件になってみてその違いがはっきり見えてくる。
憲法第89条
公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。

 

<里親手当て>
里親とはなにか。正面から答えてくれるものがないので、里親手当ての性質からみてみる。
手当てと言えば多くの場合労働の対価だが、里親手当ては労働の対価ではない。行政もずいぶん悩んだすえの結果だと思うが、先に述べた憲法第89条もあるし、里親の活動に労働者性をもちこむのも問題がある、と考えたのではないか。
里親手当ての性格を説明しておく。
里親手当ては養育費とともに措置費として支給されているもの。
まず、児童福祉法第57条の5に「租税その他の公課は、この法律により支給を受けた金品を標準として、これを課することはできない」とある。
それなら措置費は課税の対象にはならないと判断すべきだ。ところが、平成24年12月26日付けで国税庁個人課税課から『児童福祉法の規定に基づき里親及びファミリーホーム事業者が支弁を受ける措置費等の取扱いについて』という通知が出ている。
これによると、里親への措置費は、児童福祉法第57条の5第1項(租税その他公課の非課税等)に規定する「支給を受けた金品」には該当せず、課税の対象となる、としている。
その理由としては、里親は「社会福祉事業とは位置づけられておらず、事業として行っているとまでは言えないことから、支弁を受ける措置費等については、その者の雑所得の金額の計算上、総収入金額に算入されることとなる」としている。
そして、「雑所得の金額は、1年間の総収入金額から必要経費の総額を差し引いて計算することとされていることから、必要経費を差し引いた結果、残額が生じない場合には課税関係は生じないこととなる」という。
確かに国民の税金から措置費が支払われていることを思うと、きちんと把握することは必要だが、生活にかかった費用からその子どもにかかった経費(養育費)を割り出すには、家計全体を正確に把握することが必要になる。
厚生労働省は『里親に支弁される措置費等に係る具体的な手続き』で「措置費等として支弁された金額(一般生活費等及び里親手当ての合計額)以上に必要経費が生じている場合には、この措置費等について雑所得の金額は生じません」。そして「税務署からの照会があった場合には里親委託に係る金銭の収支状況を説明する必要がありますので、収支状況の記録や書類を整理しておく必要があります。なお確定申告に係る具体的な手続きについては、最寄りの税務署に問い合わせください」としている。
里親手当ては雑所得に含まれるので、里親会への参加、研修や勉強会、行事への参加費(交通費等を含む)、家族レクリエーションなどの経費が考えられるとしている。育児に関する人件費は含まれていない。
措置費の説明のために家計全体の把握が必要になるとしたら、そのための手間のための事務費が出てもよさそうだが、なんとも一方的な通知だ。そしてはからずも、里親は事業とは言えないのだから児童福祉法の57条にはあたらない、としている。児童福祉法の理念の部分(3条2項)では、家庭養育の困難な家庭にはそれに代わる家庭を用意するべきとして里親を重要視していながら、57条は里親家庭を除外するというのだ。
里親手当の考え方(金額の妥当性)については養育者がパートで働いた場合というのが考慮されているのにもかかわらず。


<里親による養育は業務ではない>
里親とは何か、最も基本的なことからいろいろと制度などについて考える。今回は「里親委託ガイドライン」「養育指針」から考えてみよう。
「里親委託ガイドライン」、「里親の養育指針」をひっくり返してみている。作った時には「里親は家庭というもっとも私的な場所で公的な子どもを養育する」との一文があったはずだが、いつの間にかこの一文が見当たらない。文章がこの通りかどうかはあいまいだが、私も作る側にいたのでよく覚えている。
里親はどういう存在なのかと考える時、「最も私的な場所である家庭で公的な子どもの養育を行う」という説明は分かりやすかった。しかし、その後、この一文が外されたとすると、なにか好ましくない内容であったということだろうか。たとえば、業務性が出てしまうから。
里親の最低条件には、委託された子どもについては実子やその他の子どもと差別しないようにとの一文がある。もしも里親が公的な役割を担っていて、公的な子どもを養育するとしたら、差別するどころか、実子よりも上位な存在として養育しなければならないだろう。転んでひざを擦りむいたとしても、実子なら痛かったね、で済むが、公的な子どもが転んでひざを擦りむいたら、一応児相に連絡を入れておくべきだろう。実子と同様に扱ってはいけない。さまざまなことを報告しなくてはならない子どもなのだ。
なくなったこの一文は、里親の役割がよく説明されている。しかし、公的な業務をボランティアが担っているというのはどこかふさわしくないにおいがする。
里親とは何者で、行政はどう考えたがっているのか。法人であれば非常に管理しやすいが、一私人でしかもボランティアな関りだとしたら名目が立たない。本来なら、施設のように事務費がついて、管理業務代を支払うこともできるだろうが、一私人では難しい。
以前に、児童養護施設乳児院、里親が別々の団体を作っているのはおかしい、社会的養護の団体として1つにした方がいいのではないか、と思ったことがある。さまざまな業界団体を作るのは、昔であれば天下り先の確保、そうしたことができなくなった今でも、行政にしてみれば、個別に分断したほうが管理しやすい。しかし、今日的に考えるならば、社会的養護に一業界団体が望ましいのではないかと考えたのである。
だが事業体の集まりと私人としての里親が一つの団体になることは難しい。この辺の問題を解決するには、フォスタリング機関の創設はなかなかうまいやり方だといえよう。

 

<最低基準>
里親とは何か。正面から問われると実はよく分からない。たぶん一私人が行うボランティアなのだろう。これまで見てきたように、里親手当てとはいうものの、労働の対価ではなく必要経費として支払われる。そして、余るようなら税務署に申告するように。税務署から何か言われたときには説明できるように資料を整備するように、と。なんだか、割り切れない部分だけ押し付けられていないだろうか。
さまざまな書類で、里親の活動を業務とは位置づけていない。たまたま漏れているのは最低基準の第11条に「里親は、正当な理由なく、その業務上知り得た委託児童又はその家族の秘密を漏らしてはならない」とある。都合のいい時だけ里親の担っているものが業務だと言われるが、多くのところで「業務」という言葉は周到に避けられている。
子どもの命を預かっていて、これまでみてきたように傷害を負わせたり命を失わせる結果になった時には1億円前後もの賠償を問われたりする。仕事なら保障される仕組みがあり、施設についていえば準公務員的にみなされる。ところが里親のようなボランティアは自己責任とされる。言うまでもないが誰も子どもに障害を負わせたいなんて思ってはいない。しかし事故がないわけではないのが日常の生活というものだ。

 

<健康を害する里親>
里親は十分な支援を受けて、充実した養育をしているのだろうか。「里親家庭の全国実態調査」(平成27年度調査・全国里親会)によると、最初に子どもを受託した際、養育者にどのような心身上の変化があったのか複数回答で聞いている。
「心身上の問題があった」は里父で20.1%、里母で32.1%。
その内訳は、「体調不良」が最も多く46.0%。次いで「睡眠障害」(28.2%)、「不安症状」(25.4%)、「うつ症状」(14.5%)と続く。示した選択肢に含まない「その他」も35.6%と高い。
心身上の問題があった人のうち、服薬したが31.6%、通院したが37.5%となっている。
こうしたときに誰が支えになってくれたのだろうか。「同居家族」(54.3%)、「同居外家族・親族」(33.4%)と親族の支えが大事そうだ。次いで「児童相談所職員」(45.4%)、「里親仲間」(43.4%)と続く。
里親になるための研修代や交通費も出ず、研修段階では子どもが委託されるかどうかもわからず、6割以上が未委託里親。そして、子どもが来てみると上記のような大変さ。
好きでやっているんだから問題ないだろう、というには課題が多すぎないだろうか。里親とは何か、とみていくとき、身分的な保証のないまま担いきれない大きな責任を負っていく。
これまでも言ってきたように、大事なのは子どもで子どもに間違いがあってはいけない。しかし子どもを養育する里親にもまともな養育環境が保障されるべきだろう。
養育の心労について紹介したが、育て上げて措置解除になってからも里親家庭から自立できない「子ども」も多い。残念ながらそうした調査はないが。

 

<里親保険>
話題にしたいのは里親保険。気になっているのは、預かった子どもに重い障害を負わせたり命を失ったりした場合、1億円前後の損害賠償が里親に課せられること。先に見たように、施設職員とは異なり、里親は丸腰に近い。そこで唯一可能なのは里親保険だと思う。
里親保険の問題はいくつかある。
一つは、誰が掛け金をはらうか。全国里親会で調べたところ、行政が全額払っていると答えたところは71.1%。公的な子どもを預かるわけだから当然行政が負担すべきだろうが、3割は行政以外で、里親が全額負担しているところもある。
それから、里親賠償責任保険の補償金額。全国里親会の3タイプは補償金額が1000万円のもの、5000万円のもの、1億円のもの、がある。行政が負担している場合、一番低いものでいいだろうと、1000万円保障のものが多くなっているように思う。先に見たように、事例的には少ないが、1億円前後の事故がなくはないのだ。丸腰の里親としては1億円の補償をきちんと要求すべきだろう。でないと、人生が丸ごと借金返済にならないとも限らない。
3つめは、加入条件に縛りがあること。全国里親会の会員にならないと多くの場合保険にも入れない。自前の地域でやっている場合も少なくはないが、加入しないと保険に入れないのもおかしい。たとえば親族里親を会員の対象にしていない地域の里親会の場合、親族里親は保険に入れないでいる。全国里親会の保険ではなく、自前でやっているところは施設と共同して保険を作っているところがある。加入は当然のことなのだから、全国里親会の会員加入を条件にしない里親保険にすべきだろう。実は、全国里親会としても設立の目的の公益性から逸脱した事業なのだ。会として事務を担っているが、保険会社が自前で担ってやればいいものだ。
4つめは、もろもろ。12歳以上の子どもの場合は自己責任が生じるので損害補償にしにくい問題がある。別に保険をかけなければならない。さらに、里親がケガをしたり家屋を破損したりした場合、そうした問題には里親保険は対象外となっている問題がある。
地域の自治体が、それぞれの責任において取り組むべき問題だと思う。そして、自治体が里親保障をしっかり担っていってほしいものだ。